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障害者の介護保障を考える会のブログ

障害者の介護保障を考える会(ホームページ:http://kaigohosho.jimdo.com/)のブログです。例会のお知らせ、報告など。

【報告】 障害者の自立と尊厳を支える介護給付のあり方を考えるシンポジウム

 2月8日、兵庫県民会館において、表記のシンポジウムを、約80人の参加により主催しました。神戸市で自立生活を志す重度身体障害者が深夜介護も必要とするのに十分な支給量が認められない事例、知的障害者で様々なヘルパーと外出を積み重ね「言葉」も増え生活する上で意義が大きいのに、神戸市では一律上限月32時間までしか認められない事例、転居してきた視覚障害と難病のある人が従前の自治体で受けていた介護支給量が神戸市では認められない事例・・・このように様々な介護支給量に関する相談/問題を解決しようと、同準備会を設立し、今回のシンポジウムを開催しました。

 講師には、「障害者自立支援法違憲訴訟和歌山弁護団事務局長」「介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット」で活躍される長岡健太郎弁護士。とりわけ和歌山市で高齢のALS患者や脳性マヒ障害者の介護支給量に関する訴訟の弁護士として、いずれも行政の不支給を違法とした判決が勝ち取られました。シンポジウムでは長岡さんの講演、続いて介護支給量に関して困られている当事者・家族の方の指定発言も交え、活発な議論が行われました。以下、長岡さん作成のレジュメを下に報告します。

 
長岡弁護士の講演内容

■人権としての介護保障を実現するための法体系

私は学生時代にボランティアサークルに所属し、そこで出会った自立障害者の様々な困難な生活を知り、一緒に法律相談を受けに弁護士を訪問するが、なかなか理解されない場面に立ち会い、それを契機に弁護士になり、その直後に全国各地で提訴された自立支援法違憲訴訟の和歌山訴訟に事務局長として参加しました。

(1)  日本国憲法に基づいた権利

地域での自立生活に必要な公的介護保障は、憲法で定められる基本的人権です。憲法には「幸福追求権・個人の尊厳」「平等権」「居住移転の自由」「移動の自由」「生存権」が定められ、国民に保障された基本的人権であり、当然その権利は障害者にも適用されます。国内の最高法規である憲法で既に認められているのです。

(2)  障害者権利条約

日本も141ヵ国目の締約国として、2014年1月20日に国連・障害者権利条約に批准しました。

〈第19条 自立した生活及び地域社会へのインクルージョン

「障害のあるすべての人に対し、他の者と平等の選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等の権利を認める」、また「障害のある人が、他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと」

日本国内では憲法の次に効力のある国際条約に、このように明記されています。

(3)  障害者基本法

さらに、この権利条約への批准に向けた国内法の整備として改正された障害者基本法では第3条(地域社会における共生等)では・・・

「第1条に規定する社会の実現は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。

一 全て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。

二 全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。(以下、略)

(4)  障害者総合支援法  「目的」

障害者基本法の基本理念にのっとり、障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な福祉サービス等の給付を行う」「全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと・・・・」

 

このように、障害者の在宅での自立生活は憲法22条等に規定された基本的人権であり、障害者権利条約、障害者基本法、障害者総合支援法によって具体化されています。こういう基本的理念を踏まえて、一人ひとりに対する支給決定がなされなければなりません。

 

■24時間介護を求める石田雅俊さんの訴訟

1 石田さんの状況

・ 脳性麻痺のため、首から下の自由が利かない。→移動にはすべてヘルパーが必要。飲食、トイレ、着替え、電話、来客時の対応、体が傾いた時…

・ 中学生までは施設で生活する。高校は、和歌山県内の寄宿舎付養護学校

・ 卒業後は、家族の介護のもと実家で生活。その後施設を転々。

・ 平成16年4月から和歌山市で一人暮らし。

・ 自立支援法施行後、支給量を月101時間削減された。

2 和歌山市の主張

・ 元々石田さんの支給量が多すぎた。他の利用者に合わせ、不均衡を是正しようとした。

・ 夜間は巡回型の介護で足りる。

・ ヘルパーも、経験を積んで慣れてくるので、支給量が減っても対応できる。

3 大阪高裁の判断

→ 月578時間(1日当たり約18時間)を下回らない支給決定を義務付け

① 「市町村が行う…支給量の決定が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法となるかどうかは、…決定内容が、当該申請に係る障害者等の個別具体的な障害の種類、内容、程度その他の具体的な事情に照らして、社会通念上当該障害者等において自立した日常生活又は社会生活を営むことを困難とする ものであって、自立支援法の趣旨目的に反しないかどうかという観点から検討すべきである」

② 「就寝時間にあたる夜間を通して見守り介護を認めなければ、1審原告は睡眠時間を確保し体調を維持することは困難と考えられる」

③ 「月558時間…に満たない時間数では、1審原告が自立した生活を送り、健康を維持する等に困難を来たしこれを損なう具体的かつ明らかなおそれが生じる」

④ 「1審原告にこれらの時間数の支給量を認めると、…1審被告の財政には一定の影響はあるものと考えられるが、証拠上、具体的にいかなる支障が生じるか明らかではなく、1審被告の財政に与える影響等によって、上記認定は左右されない」

⑤ 「1審被告の指摘する、他の受給者との均衡は、それ自体、勘案事項とはされていない上、『障害者等…の心身の状況』を上回る重要性を持つとはいえないから、1審被告の上記主張は採用できない」

→ 判決後、月598時間の支給決定。この他、生活保護の他人介護料あり(1日当たり約4時間)。

 

■24時間介護を求める和歌山ALS訴訟

1 Xさんの状況

・ ALS、70歳代男性、70歳代の妻と2人暮らし。妻は左足が不自由な状態。

・ わずかにまばたきができるのと、左足の小指を何とか動かせるのみ。

・ 人工呼吸器利用、痰の吸引が必要、食事は胃ろうを使用。

・ 元々の支給量は月268時間。介護保険と合わせても1日当たり11~12時間

2 和歌山市の主張

・ 妻の就寝時間分1日8時間+緊急対応分20時間の合計月268時間を支給する。

・ 事業所が現実に24時間体制で介護を行っているので、緊急の必要性はない。

3 仮の義務付け命令の申立て

⑴ 仮の義務付け命令の申立てに対する和歌山地裁決定(平成23年9月26日付、賃金と社会保障1552号、判例タイムズ1372号92頁)

→ 月511.5時間(1日当たり16.5時間。介護保険合わせ1日20時間)の支給決定を仮に義務付け

「申立人が、体位変換、呼吸、食事、排たん、排泄等、生存に係るおよそ全ての要素について、他者による介護を必要とすること、自力で他者に自分の意思を伝える方法が極めて限定されていることに鑑みると、申立人は、ほぼ常時、介護者がその側にいて、見守りも含めた介護サービスを必要とする状態にあることが認められる」

⑵ 仮の義務付け抗告審

平成23年11月21日、大阪高裁は、介護事業所による介護がなされていることを前提として、緊急の必要性が認められないとして、和歌山地裁の決定を取り消した。

4 本裁判~平成24年4月25日、和歌山地裁判決(判例時報2171号28頁)。

① 妻の年齢や健康状態に加えて、ALSの特質及び原告の生存に必要とされる器具の操作方法等に鑑みると、少なくとも1日当たり21時間分については、職業付添人による介護サービスがなければ、原告が必要十分な介護サービスを受けることができず、その生命、身体、健康の維持等に対する重大な危険が発生する蓋然性が高い。

② 現実に24時間体制で原告の居宅介護が行なわれているが、これは、介護派遣事業者が、原告の生存に必要不可欠であるという判断で、やむを得ず行っているものであるから、これをもって、原告の支給量を減少させる要素と考えることはできない。

→ 月542.5時間(介護保険と合わせて1日当たり21時間)を下回らない支給決定を義務付け。和歌山市控訴せず、確定。和歌山市は平成24年5月29日、月593.5時間(介護保険と合わせて1日当たり約21.5時間)の支給決定をした。

 

■ 弁護士が果たせる役割

・ 最初の申請段階から弁護士が関わり、申請一点突破を目指す。

→ 訴訟段階でおもむろに登場、ではない!

→ 行政や事業所の担当者と直接折衝することで意識改革にもつながる。

・ 勘案事項調査にも立ち会う。

・ 権利論に根差し、本来あるべきケアプランに基づく支給量を一貫して求める。

・ 相談支援事業所、ヘルパー派遣事業所などとの連携。

・ 市町村の理屈(支給決定基準、他の利用者との均衡、財政事情…)に捉われない。