障害者の介護保障を考える会のブログ

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【資料】 札幌鬼塚訴訟に関する判決について(長岡弁護士)

 4月24日、月720時間以上の重度訪問介護の支給を求める札幌鬼塚訴訟の控訴審判決期日がありました。結果は、札幌市の言い分をほぼ全面的に認める不当判決でした。
 平成24年7月の一審敗訴判決以来、これを覆すべく、当事者、支援者、弁護団一丸となって頑張ってきましたが、力及ばず残念です。
 高裁判決は、「総合支援法及び施行規則は、勘案事項のみを定め、これを考慮する以外には、目的(1条)及び基本理念(1条の2)並びに市町村等(2条)及び国民(3条)の責務を定めているのみであり、実際の支給量の決定については、市町村の裁量に委ねられており、そこにおいて、財政事情を全く考慮に入れないことは不可能」などとして市町村の広範な裁量を認めました。
 また原告の鬼塚さんは、不随意運動、てんかん発作(毎日)、睡眠時無呼吸症候群などのため常時介護が必要なのですが、札幌市は一部の最重度障害者を除き、月330時間(平成25年4月以降は540時間)を上限とする基準を設け、これに従って鬼塚さんにも月330(平成25年4月以降は540時間)の支給量しか認めず、残りの時間は生活介護や短期入所で賄うべしとしてきました。
 札幌高裁はこのような市の取り扱いについても、「当該障害者の生活スタイルの希望を常に完全に叶えることが総合支援法乃至自立支援法の趣旨目的であるとは解されないし、控訴人がどこで生活するかの決定を福祉サービスによって実現されることが常に保障される基本的人権であるとまでは解されない」などとして、市の裁量の範囲内であるとしました。
 日本も権利条約を批准し、そこでは地域社会で暮らす平等の権利がうたわれ、障害のある人も障害のない人と同じように、どこで誰と生活するかを自ら決定できるとされています。しかし、高裁判決では、このような障害者の基本的人権に対する理解が全く見られません。弁護団の力不足であるといわなければなりませんが、残念です。 嘆いていても仕方がないので、今後、このような札幌高裁判決を乗り越えていかなければなりません。
・上告
 鬼塚さんは「あくまで地域生活にこだわり、裁判を続けたい」と言っており、本件は最高裁判所に上告予定です。
・個別事例を通じての巻き返し
 支給量案件に関しては、今回の札幌高裁判決のほか、障害者の地域での自立生活を支援するという自立支援法の目的(1条)を重視し、支給量は一人ひとりの事情に即して決められるべきとし、個別事情を積み上げて支給量を導き出し、和歌山市の決定を取り消した和歌山石田訴訟大阪高裁判決があります。
 不当な高裁判決と評価できる高裁判決が併存している形です。
 今回のケースは今のところ残念な結果ですが、これも一つの事例判断に過ぎないともいえます。
 大阪高裁判決のような判断こそをメインストリームにすべく、引き続き支給量案件に取り組んでいけたらと思っています。
・運動
 今回の高裁の判断を見ると、改めて障害者の地域で暮らす権利は、現状の総合支援法の規定では十分保障されないということが明らかです。基本合意文書や骨格提言の趣旨を踏まえ、総合支援法の規定に「地域で暮らす権利」をはっきり明記することが必要です。
 そのためには、当事者による大きな運動が必要であり、弁護士としてもそこへ連帯していきたいです。
弁護士 長岡健太郎